新着順:669/3025 記事一覧表示 | 《前のページ | 次のページ》

讃酒歌

 投稿者:YURA  投稿日:2015年 5月31日(日)09時32分6秒
  通報
    先頃偶々読んだ、作家の阿川弘之の随筆集「食味風々録」の中に、一寸興味をひかれる標題の一章があったので、以下にご紹介します。〈前文省略途中から〉


  小学校4年生か5年生の時であった。60歳過ぎの父親が老後の収入を考えたのか、末っ子の将来のためにと思ったのか、貸家を一軒建てることにした。心行寺という寺の隣りの空き地へ神主がやってきて、地鎮祭が行われた。祝詞お祓いのあと簡単な盃事になった。

  「おまえも一杯頂戴せえ」と父がすすめるので、素焼きの盃に六文目ほど注がれた冷や酒を、一礼してぐっと飲み乾したら、五臓六腑にしみわたるほど旨かった。こんな旨いものを好きなだけ飲んでみたいと、酒に対する憧憬が生じた。

  望みが叶うのは7,8年後中学4年修了で広島高等学校の入学試験に合格し、マントに白線帽、朴歯の下駄、自由自治の生活が始まってからである。万葉集の歌にも親しんだのもその頃だが、おでん燗酒にも心ゆくまで親しんだ。未成年の大酒放歌、乱舞高吟を警察もまだ大目に見ていた。寮歌やでかんしょ節歌いながら飲むのはもっぱら日本酒であった。〈中略〉

  今からおよそ30年前、東京に何軒か傑出して旨い中華料理屋があって、食べに行くと私は先ず貴州の茅台酒(まおたいしゅ)を注文し、好みの前菜と一緒にその香りと味を楽しんでいた。この旨いきつい酒、マッチを近ずけると青い炎上げる文字どうりの火酒が種々の事情から大変安く買える。一番上質なもので一瓶2000円ぐらいだったと記憶する。

  数年後、田中内閣の時代になった。角栄首相が北京を訪れ念願の日中国交回復成就、周恩来首相と「乾杯(かんぺい)、乾杯」の光景が連日連夜、新聞テレビで報じられた。「乾杯」の中身は茅台酒である。いい迷惑であった。途端にブームが起こり、東京に於ける貴州茅台の値段は6000円、7000円に跳ね上がった。〈後略〉

余談その1:私にも同じような経験があり、私の好みに合うことから大いに珍重していた。ところが当座安かった茅台酒が著者と同じく、田中角栄、周恩来の乾杯以後急激に値を上げ飲むのをあきらめざるを得なくなった。

余談その2:私が毎週火曜日囲碁の集会に通う「さわやかセンター」のトイレに一寸秀逸な、ただし女性にはいささか品位に欠けると思われる、下記の貼紙が表示されている。

     急がずと 心静かに 筆をとり 一滴もこぼさず 松茸の露



 
》記事一覧表示

新着順:669/3025 《前のページ | 次のページ》
/3025