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ジョークの鼓吹

 投稿者:YURA  投稿日:2017年 6月15日(木)13時26分14秒
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   先日図書館で見出した、ある随筆集の中から秀逸と思しき、作家の飯沢 匡の標題の文章の一部に興味を覚えたので、その部分を以下にご紹介いたします。

  あのワンマンこと吉田茂元首相はジョークの大家であった。戦後アメリカから初の文化使節としてヴァイオリンの名手メニューヒンが来日した。私もこの神童とかって言われたメニューヒンの妙技に接すべく、なけなしの財布をはたいて駆けつけたのであったが聴いて大失望した。諺の通りかっての神童も中年になっては「ただのひと」に近かった。吉田氏は休憩時間に中座して帰ったが、翌日の記者会見で「昨夜メニューヒンのピアノを聴いてきましたよ」といった。ジョークの判らぬ記者は一斉に「首相はモーロクして、ついにヴァイオリンとピアノの区別もつかない」と悪口を紙上に書いた。しかしこれは高級なジョークで、吉田氏の評価の通リ確かにメニュ―インの伴奏者アドルフ・パラーのピアのは大したものであった。のちにパラーは独奏者として名を成したが、吉田氏はこのピアノを褒め、婉曲にメニューヒンのヴァイオリンをくさしたのであった。のちに退官してから吉田氏はこのジョークを挙げ、記者の没分暁漢(ぼつぶんぎょうかん・わからずや)ぶりを嘆いていた。これは私に言わせると換骨奪胎(かんこつだったい・自分流に仕立て直す)の巧妙なもので、あの劇作家のG・Bショウの逸話を知った上で吉田氏は自分流にアレンジしたものであろう。

  ショウの逸話は、ある富豪の夫人がピアノの天才という娘の演奏をこの劇作家に聞かせ、感想を求めた。多分褒め言葉を期待したのだろうが、ショウは「奥さん、お嬢様にはヴァイオリンをお習わせになったらいいでしょう」。これが吉田氏の頭に生きていたのではないかと私は思うのだ。
 
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