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生ニシンの屋台

 投稿者:YURA  投稿日:2017年 4月19日(水)13時34分20秒
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    先頃読んだ「司馬遼太郎の風景」を題名とする随筆集にもとずき、NHKの「オランダ紀行」と称する取材班が行った、司馬遼太郎の足跡をたどる紀行文の中に、一寸興味を惹かれる標題の一章があったので、以下に記してみます。

  春になるとオランダでは、その年の初物のニシンを生で食べさせる屋台が出る。ライデン開放の日から100年の歳月を経た今日でも、オランダの人々はニシンのしっぽをつまんで、生のままたべるという。

  この話は有名で、司馬さんも「オランダ紀行」の中で触れているのだが、実際に目にするまで本当に絵にあるように、しっぽをつまんで食べるのかどうか半信半疑だった。が、ライデンの町の屋台を訪ねたとき、その疑念は一瞬にして消え去った。

  老弱男女を問わず、市民たちがひっきりなしに屋台を訪れては生のニシンを買い、しっぽをつまんで上に向けた口の中にほうり込んでいるのである。薬味は刻んだタマネギだけである。カメラを向けると、誰もが快く撮影に応じてくれた。

  「これがオランダの本当の味だよ」といって、かじりかけのニシンを振って見せる人がいる。「日本でも魚は生で食べるんだろう。」などと、親しげに話しかけてくるひともいる。たとえ女性であっても、恥ずかしげにカメラから逃げたりはしない。「最高においしいです」と言って、うれしそうにしている。物腰がおおらかで飾らないオランダ人の人柄が,よく表されている光景といえる。

  「ニシンとライデンのかかわりを知っていますか?」と訊ねると、一人がすぐに答えてくれた。「ええ、ライデンの解放のときのことでしょう。この町が包囲されて、みんな飢え死にしそうになったとき、救援隊がニシンと白パンを運んできて、市民は救われたんです。今でも毎年3月3日には、そのことを祝ってニシンと白パンを食べる祭りが、この町にはあるんです。」そういって再びニシンをほおばった。

  「オランダはニシンが興した国」と司馬さんは書いているが、北海で獲れるニシンは中世以来オランダの主要な産物として、外貨の獲得に役立ってきた。そういう点でオランダとニシンは深い縁があるが、その中でも特にライデンではこの魚によって飢えを癒されたということで特別な意味合いを持つ食べ物となっているといえるだろう。


 
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